人間にしかできない領域を探るために、データの限界を追求する ーーCDO(Chief Data Officer)塚本圭一郎
塚本圭一郎が部長を務めるIntegrated Data Service部のビジョン「AIにはできない人間のコンテンツの世界を明らかにする」は、一見するとデータを生業とする部門らしからぬフレーズだ。
ビジョンを作った塚本は、その意図をこう語る。
塚本:
このビジョンには、僕が大切にしたい想いを込めました。最近の傾向として、AIやビッグデータに注目が集まっていますが、データを見れば物事の全てが分かるわけではありません。データや機械を過信している側面があると感じます。だからこそ、データを扱う私たちは、『人間中心』に物事を考えることを忘れてはならないと思います。データでできることを追求すると同時に、ここから先は人間がやるべきである、という領域を明らかにしていきたいのです。この姿勢については、部のメンバーにも繰り返し伝えています。
塚本自身の職業観にも通じる「人間中心に物事を見る」という想いは、学生時代に同人誌を販売していた原体験から生まれている。当初作った同人誌が売れずにショックを受けたものの、仲間と一緒にデータを分析して売れるコンテンツ内容を予測し、その予測に沿った同人誌を作ったところ売上が伸びたという。
塚本:
最初は『やった!データはやっぱり大事だ!』と嬉しかったのですが、その後すぐに、何のために作品を作るのかが分からなくなってしまいました。虚しい気持ちが残ったのです。クリエイターとして生きていくのであれば、食っていけるだけ作品が売れる必要があります。他方で、お金を儲けるだけだったら、他の仕事でもいいはず。この体験をきっかけに、クリエイターは何のために作品を作り、企業はクリエイターにどんな価値を届ければいいのかを考えることを大事にしたいと考えています。その想いは、今も変わりません。
この想いを持つ塚本がリードするIntegrated Data Service部では、大きく3つの業務領域を担っている。まず、ビッグデータを分析する環境を整えるデータプラットフォームサービス。2つ目が、データの可視化や機械学習モデルの構築といったソリューションを提供するデータソリューションサービス。そして、お客様の課題特定から解決策の提案、トレーニングまでを行なうデータコンサルティングサービスだ。インフラ構築からコンサルティングまで、データ系のソリューションを一括で用意できるのがIntegrated Data Service部の価値である。具体的には、どのような価値を提供しているのか。
塚本:
ニコニコチャンネルというファンクラブサービスのオーナーの方向けに、ファンの方が何を目的にファンクラブに入会したかなどを知ることができるマーケティングダッシュボードを提供しています。他にも、宣伝施策を通して、KADOKAWAの販売している紙書籍・電子書籍それぞれの売上が、どのように変化したかを知るためのダッシュボードを提供したりしています。今後は分析結果のみならず、媒体を横断したIP(Intellectual Property:小説やアニメなどの知的財産)単位での収支管理を通じて、メディアミックスの効果最大化を行っていきたいですね。
塚本に「データを扱う職種の人に持っていてほしい素養」を聞くと、3つの素養が挙げられた。お客様が本当に求めているものを深掘りして突き止めるコミュニケーション能力、データ分析において重要となる問いを立てる力、そして「アート志向<oriented>」だ。
コミュニケーション能力や問いを立てる力は、コンサルティング業務をするうえでは欠かせない。お客様が本当に求めているものを深掘りして見出す力が求められる。では、アート志向<oriented>はなぜ必要だと考えるのだろうか。
塚本:
データは時に、人間を1つの尺度に固執させてしまうリスクがあります。数理モデルは世の中で起きている事象を定式化したものですが、これはある1つの価値基準に着目し指標化したものにすぎません。ある1つの価値基準というのは、例えば、『応答速度』が速い、『正解率』が高いといったものです。
定式化は、ある尺度でモノを比較をする際に便利ですが、一方で、現実の世界はもっと複雑です。1つの定式で表現しきれるものではありません。シンギュラリティ(AIが人類の知能を超える転換点)という言葉が流行っていますが、仮にシンギュラリティに到達したとしても、それはとある尺度でAIが人間より高いパフォーマンスを出したに過ぎず、人間そのものの価値がAIによって否定されたわけではないのです。
アートが自由で色々な価値観を提供してくれるように、データも1つの側面からしか見ないのはあまりにもったいないし、つまらない。ヒット映画が素晴らしいのは興行収入が高いからである、と言ってしまったらつまらないですよね。実際はもっと複数の見え方があることを忘れてはいけないのがアート志向<oriented>の本質だと考えています。
般若心経に『色即是空、空即是色(しきそくぜくう、くうそくぜしき)』という言葉があります。形あるものには実体はなく、何らかの縁によって私たちの目に見えているに過ぎない、という意味です。この言葉が表すように、世界そのものは、色の付け方でいくらでも姿を変えるものなのです。
論理性が求められるデータ分析と、アート志向<oriented>。相反するように感じられるこの2つの考えを常に持っていることが、データの持つ本質的な価値に迫るための素養だというのが、塚本の信念だ。
PROFILE

Chief Data Officer
塚本 圭一郎博士課程終了後データエンジニアとして、株式会社ドワンゴ入社。2019年ドワンゴで培ったノウハウをKADOKAWAグループ内に展開して欲しいとの使命を受け、当社に参画する。①データ活用に必要な人材・基盤・ツール・データをグループに最適な形での調達、②データ活用を成功させグループ全体に展開していくためのソリューションの提供、③データ活用を効率的、効果的、健全に行うためのマネジメント体制の構築の支援をミッションにデータ関連のサービスを提供している。2021年3月当社CDO(Chief Data Officer₎就任。

Chief Tech Officer
飯島 徹大学卒業後、ソフトウェア開発者を経てネットワークエンジニアとして新規事業立上げに携わる。コンパック(現:日本ヒューレット・パッカード合同会社)エグゼクティブ コンサルタント、課題解決と事業発展にむけたシステム設計構築、仮想化技術活用を社内外に展開。ヴイエムウェア社シニア ソリューションスペシャリスト、日本マイクロソフト社 Azure グローバル アカウント技術部 部長。Azure プリセールス技術職を経て、グローバル展開の日本大手企業を管轄する技術部隊をリード。2021年3月当社に参画、CTO(Chief Tech Officer)就任。