マイナス評価からの脱却。従業員に信頼されるICTヘルプデスクへ
渡辺が所属するCustomer Success部は、EUC(End User Computing)チームとの連携も大切にしていた。
渡辺:
EUCチームとは、二人三脚でやってきました。新しいツールを使っていただくためには、問い合わせ窓口が円滑に機能していることが欠かせません。現在は、使い方や技術に関する問い合わせをICTヘルプデスクのSlackチャンネルに投稿すると、EUCチームが迅速に回答してくれます。
ただし、一昔前は問い合わせへの回答が滞ったり抜けたりすることもあり、ICTヘルプデスクへの評判は高いものではなかった。そこで、EUCチームは、「ICTヘルプデスクの品質改善」から着手し、問題解決の基本として「何が問題なのか?」を考えるためにITIL(※)に準拠したヘルプデスク業務の標準化、仕組化に取り組んだ。すると、チームメンバーは明るく、ホスピタリティあふれる優秀な方ばかり。個々人の問題ではなく、ツールや組織内コミュニケーションといった『仕組み』が問題だと気づいたという。
※Information Technology Infrastructure Libraryの略で、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティス(成功事例)をまとめた書籍群を指す
当時のEUCチームは、ユーザーからのリクエストをスプレッドシートで管理をしていた。そのため運用面でシートへの入力漏れや、ステータス更新が疎かになるなどがあり、結果として回答をお待たせしていることに気づきにくい問題点があったという。そこで、進捗管理の精度を高めるため、毎日30分、メンバー全員で未完了の問い合わせの進捗を確認する時間をつくったのだ。
渡辺:
当時のヘルプデスクチームリーダーから、『この時間は、作業漏れの有無の確認、苦慮している内容の把握と対応方法のアドバイス、問い合わせからの気づき等、メンバー間で情報交換する機会となっていた』、『チーム力が向上し、ユーザーをお待たせする時間が大幅に削減できたと』と聞いています。実際に、技術的な調査が必要となり回答に時間がかかりそうな問い合わせはユーザーに必ず一報を入れるなど、ごく当たり前のコミュニケーションを徹底され、社内からの信頼が徐々に高められていくのを私も感じていました。
ICTヘルプデスクの改善はさらに続いた。スプレッドシートでのリクエスト管理には限界があるため、ITILに準拠したITサービスマネジメントシステムを2020年8月に運用開始。Slackやメールといった複数チャネルからのリクエストが自動でチケット化され、リクエスト管理の精度も向上した。
それでも、属人化した業務も多く、情報の可視化や作業の標準化が課題として残っていた。作業の標準化には手順書が必要となるが、社内には知識と経験がない人には不向きな手順書が存在しており、その改善が重要になる。良い手順書とは、見ず知らずの人に『これを見て、この通りに操作してください』と伝えて作業完了できるものが望ましい。そこで、標準化を進めるポイントのひとつと考え、手順書も整備していった。
さらには、ICTのルールや申請方法などをまとめた社内ポータルサイトを構築。従業員はポータルサイトを見れば質問せず解決できるようになった。ただ、サイトを見ても分からなければ、SlackのICTヘルプデスクチャンネルに質問すると適切な回答を得られるサービスも整えた。そして、チャンネル運用にも対応の品質を上げるための努力があった。
渡辺:
問い合わせは個別メッセージではなく、チャンネルでオープンにされていました。メンバー個人の判断で回答した内容が間違いの場合、お問い合わせをした方に迷惑を掛けることを避けるためと聞いています。個別に問い合わせがあった際は、了承をいただいた上でオープンなチャンネルに誘導する運用にし、情報の可視化とナレッジが蓄積するメリットが生まれていたと思います。今では、従業員の皆さんから『ヘルプデスクの対応は的確で素晴らしい』『本当に助かった』と個別にお礼をいただく機会が増え、年に1度実施しているKADOKAWA Connectedのアワードでは、ICTヘルプデスクが『利用者から愛されるサービスになったで賞』を受賞されました。私も、EUCチームの真摯な取り組みを尊敬しています。
大規模オフィス再編プロジェクト、ところざわサクラタウン「所沢キャンパス」開設
Customer Success部と、EUC(End User Computing)チームが連携して働き方改革を進める過程では、骨が折れた経験も多くあったと語る。その経験として挙げられたのは、ところざわサクラタウンの新オフィス「所沢キャンパス」の開設。 ABW推進チームが担う、新オフィス所沢キャンパスの開設を含む、大規模オフィス再編プロジェクトであり、目指す姿はまさに「Activity Based Working」だ。これは従業員が業務内容に応じて好きな場所で働けるワークスタイルを目指したもので、関係する社員2,000人超のほぼ半分にあたる1000人規模の社員が所沢キャンパスでも働けるようにする一大イベントだった。
渡辺:
このプロジェクトは、所沢キャンパスで働ける環境を作るだけでも単なるリモート環境を作ることでもありません。EUCチームは、目的や手段に応じて最適な働き方ができるよう、最適なコミュニケーション設計や関連情報の整理、実用的なデバイスやネットワークを作られていました。
私はプロジェクトの取りまとめ役として、1つひとつの業務要件を鑑みながら、ITツール、オフィスや会議室の在り方、人事制度まで、組織横断で一貫性のある方針を定義することが大切だと考えていました。同時に、皆さんに納得して協力してもらえるよう地道に説明を続ける必要もありました。“愚直に誠実に”を心がけ少しずつ信頼を得ていき、『ABW推進チームだったら任せてみてもいいよ』『協力してもいいよ』と言ってもらえるような環境を整えることができたから、この巨大プロジェクトを推進できたのだと思います。
KADOKAWAグループでは、事業グループ毎の特性を活かした働き方をしながら、所属と業務、ライフスタイルに合わせて、所沢キャンパスや東京キャンパスなど各オフィスに出社できるようになっている。
組織の成長を支える仕事を通じて「個人の成長」と「何をしたいか」を実感できる場
ABW推進チームの取り組みは、KADOKAWAグループ内でも高い評価を得ている。KADOKAWAグループには年に1度、その年に素晴らしい功績を収めた個人やチームを表彰する『角川源義賞』という賞がある。非常に名誉な賞だが、販管部門の受賞は少ない中、2020年、ABW推進チームは角川源義特別賞を受賞した。この受賞について渡辺は、「表面的なDXではなく、あらゆる施策を従業員が使える状態にまで整えて浸透させた実績と、KADOKAWA初の組織横断チームで成果を出した点が評価されのだと思います。」と振り返る。最後に、入社以来の道程を振り返り、今思うことを語ってもらった。
渡辺:
前職は外資系のITベンダーでシステムやツールのインテグレーションが生業でした。私がご提供したサービスはどう活用されているのか、本当に効果が出ているのかを知りたい気持ちが強まり、事業会社へ転じました。実際の現場にふれてみると、利用者にとってツールの細かい機能差異は瑣末なことで、業務に即した設計・利用推進や運用がいかに重要かが分かりました。
編集者がどのような手順で本を作り、ツールがどう活用されるのか、業務理解を徹底的に深めた2年間でした。DXにIT技術は必須ですが、システムやツールを導入する前の業務プロセスの可視化や整理、標準化も不可欠です。人によって仕事の進め方がバラバラでは、ツールを入れても効率化されませんから。
『ずっとこれがやりたかったんだ』と、自分の思いを理解しました。業務を可視化し課題を見つけ、解決に向けた活動を現場と共に推進する。これは他の分野へも応用できる経験です。会社の根幹に関わる経営課題に挑める環境を用意してくれたKADOKAWA Connectedには、感謝しています。
PROFILE
Customer Success部
渡辺 基子 KADOKAWA Connected Customer Success部所属。HPEでテレコム向けSIを担当中、出産・育児の洗礼を受け自身の働き方改革に取り組む。以後、同社にて働き方改革に纏わる技術領域のプリセールス・ビジネス開発を担当。現在はKADOKAWAのコミュニケーション・業務改善活動や、ユーザー視点で事業を変革する組織作りを推進している。